トントントン、部屋をノックする音。
扉を開けると宿の若旦那が立っていた。
「四方街に行こう、あそこは夜がキレイなんだ」
と、言っている様子。
この体調、この疲労でもう1回行くの?
実は病み上がりで、まだ吐き気が治まらない。
それでも朝から10時間、みっちりと「麗江」を
観光して帰ってきたところにこの誘い。
友人は再び体調不良でダウン。
ベッドから「いってらっしゃい」と手だけ振っている。
あぁ眩暈がしそう…。
でも、嬉しそうに待っている「ホワンホァ」を断れない。
ホワンホァは推定35歳。昭和のイケメンという感じ。
パリッとスーツを着こなし、いつもポケットに片手をつっこんでいる。
小さいカメラ1つ抱えて部屋を飛び出した。
ホワンホァは中国語しかしゃべれない。
ときどきノートに漢字を書いてコミュニケーションを図るが、
彼の発する言葉や、彼が書く文字はほとんど理解できない。
いい大人がふたり、
ただニコニコしながら夜道を歩いた。
「四方街」
昼間とは全く違う表情で僕らを待っていた。
これはもう宮崎駿の世界だ!
無数のぼんぼりがゆらめき、燈篭が儚げに川を流れる。
異国の風、異国の香り、異国の音。
疲れのせいか、視界が歪んで見えた。
ふわふわと、
なんだか夢の中にいるような感覚…。
まさしく“幻想的”とはこのことだ。
誰も知らない小さな路地を抜け、
迷路のような街を彼について歩く。
そういえば幼い頃、こうやって
両親や親戚に連れられて夏祭りを楽しんだっけ?
露店に目移りし、人の多さにビックリしながら。
実に3時間、夢の世界をさまよった。
光に包まれながら、心は幼少の思い出をたぐっていた。
―カズはどこまで旅をするんだ?
「まだ、始まったばかり。中国は1周するよ」
―じゃあ、旅が終わったら中国に留学しに来なよ。
「それもいいけど、中国語は難しいな…」
―日本語より簡単だし、もったいないよ。
宿に戻ると、女将さんやお婆ちゃんも登場。
ノートいっぱいに筆談大会が始まった。
長い長い1日。
優しさにどっぷりと浸かり、
少し元気を取り戻した気がする。
「再見(ツァイチェン)」※さようなら
漢字で書けばわかる。
サヨナラよりもいい言葉だって。
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