ギリギリ…


厳戒態勢がつづくスリナガル。

ここはインドとパキスタンが、互いに領土を主張するエリアで

過去に何度も戦争が行われている。

現在のところ印パ停戦条約が結ばれ、落ち着いているが

街には数十メートルおきにマシンガンを持った軍が睨みをきかせている。


さて、そんなスリナガルをたった1日、いや半日で後にし、

向かうはジャンムー、そしてダラムサラ。

ジャンムー行きのチケットを昨日予約しておいたので

定刻の8時にバススタンドへ向かった。

スリナガル→ジャンムーは約300㎞。料金は155ルピー(約400円)。

乗車時間は「おそらく9時間」と言われていたので

水だけを買って、気楽な気分でバスに乗り込んだ。


そして長い長い1日が幕を開けた…。


デラックスバスよりも100ルピー(約270円)安かったこのバス。

しかし、その差は歴然だった。

シートは固く、背もたれは垂直。

膝は前のシートにぶつかり、ぎゅうぎゅう詰めで身動きはほとんどとれない。

もちろんエアコンがないため、窓を全開にして暑さを凌いだ。


走り始めてすぐ、事故渋滞に巻き込まれ

まったく進まなくなってしまった。

走っていないと窓から風が入らないため、とにかく暑い。

あぁ、たったの100ルピーケチったためにこの始末。

転寝を繰り返しながら、ぼんやりと過ごした。


途中でチャイ休憩や食事休憩を挟みながら、

山道をのんびりとバスは行く。

やがて日は暮れたが、それでもゴールは遠い。

午後9時、ようやくジャンムーに着いた。

乗車時間13時間、まぁ普通か。


バスを降りると、

「ダラムサラ、ダラムサラ」と、呼び込みの声が聞こえた。

こんな時間にダラムサラ行きがあるとは…。

疲れた身体を引きずって、呼び込みの元へ。

値段は450ルピー(約1200円)と、法外な価格だった。

通常の3倍はする価格に、あきらめかけたが

「時間を買う」と思えば安いものかも。

どうせ乗車人数が足りなくて困っているはず。

必ず安くなる。よし、値引き交渉だ。


300ルピー!

いや、400ルピーにならまけてやる。

お願い、350ルピー!

ダメダメ!

じゃあ明日の朝のバスで行くよ。

そう、行って荷物を担ぎ、客引きに背を向けた。

OK、350ルピーでいいよ。

待ってました!とばかりにバスに戻り、

席を確保。念のため偽チケットじゃないのかを

周囲のインド人に確認し、ようやく安堵した。


「350ルピーで買ったんだけど、

本当のところいくらなの?」


隣のインド人に聞くと、軽く首をいなして、ふっと笑った。

値段は教えてくれなかったが、おそらく倍額に近いのだろう。

よく揺れるバスだったが、とにかく飛ばす飛ばす。

6時間後の午前3時には、バス停に着いてしまった。

通りでタクシーを拾い、

ダラムサラへ向かうイスラエル人とシェアして街に辿り着いた。

13時間のバスと6時間のバス。

得意のタッチ&ゴーで、予定よりも1日早くダラムサラへ着いた。


インドに来て2度目のダラムサラ。

シーズンオンのためか、宿は軒並み2倍の値段に上がっていた。

それでも200ルピー(約500円)のお化け屋敷を確保し、

ジメっとしたベッドに倒れこんだ。


時計に目をやると、スリナガルを出発してからちょうど24時間が経っていた。

あてのない旅は、実はこんなにも忙しい。


すべてが出たとこ勝負なので、瞬発力が試される。

ずいぶんと体力をすり減らしたが、

財布の中身を確認すると、残り30ルピー(約80円)だった。

お金もギリギリの闘いだったようだ。

旅のチカラ、旅のカケラ

世界一周の旅、 それはもう遠い夏のようだ。 500日間世界を駆け巡り、 300を超える長距離バスに揺られた。 旅を終えて日常に復帰したが、 それでも時間を見つけては小さな旅を続けている。 旅のチカラに引き寄せられ、 旅のカケラを集めていく、 そんな毎日。

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