最後の晩餐


「カズさん、カズさん…」

囁くような優しい声で起こされた。


「えっ、今何時??」

「もうすぐ10時っす」

目覚まし代わりのケータイを握りしめて

2度寝してしまったようだ。


「僕、そろそろ行くんで…」

声の主はケイゴ。

戦場でマジックショーを披露した

美形大学生(22歳・男性)である。


昨夜も遅くまで語り、

餞別代りに手品をレクチャーしてもらった。



もう、こんな時間!?

起こしてくれてありがとう。

伸びをひとつ打って、玄関まで彼を見送った。


「出会えてよかったっす」(ケイゴ)

眠気覚ましの甘~いセリフをいただいた。

ごちそうさま。



さて、いよいよひとり取り残された…。

「あいのり」で言えば、

新メンバーが投入されるタイミングだ。

楽しかったな、エルサレム...。

それでは最後の観光に出かけよう。



旧市街のスークを抜け、「嘆きの壁」へ。

ここはすでに3度目だ。

かつてはユダヤ教の神殿が建っていたが、

ローマのティトス将軍によって崩壊させられ、

今ではイスラム教のモスクが建っている。

ただ、当時の神殿跡の壁は残っていて

神殿の崩壊後ユダヤ人は年に1度許されている来訪の度に

帰郷の夢を抱きつつ、壁に向かって祈りを捧げている。


その姿に混ざり、壁に向かって祈った。

ありがとう、エルサレム。

またいつか来ます、と。



聖墳墓教会やダビデの塔、オリーブ山など、

たった2、3日前のことなのに

懐かしい思い出を辿るかのような心持ちで

ゆっくりと歩いた。



最後は旧市街のユダヤ・アルメニア人地区を抜け、

シオン門から城壁の外へ出た。

そのまま城壁沿いに歩き、

「最後の晩餐の部屋」を目指した。

エルサレムの最後を飾るにふさわしい場所、

そんな演出をして、エルサレムに別れを告げた。



ひとり旅ではじまった中東、

気づけば多くの仲間ができた。

かけがえのない財産に思う。



戦場を駆け抜けた友よ―。

“悲しみの道”を歩いた友よ―。

一緒に夜景を眺めた友よ―。

朝まで語り明かした友よ―。



『愛という名のもとに』というドラマを思い出した。

ちょうどバブルがはじけたころの社会派ドラマだ。

放送当時は高校生だった。

このドラマで使われた挿入歌が

岡林信康氏の「友よ」。


友よ、のぼりくる朝日の中で

友よ、喜びをわかちあおう

夜明けは近い、夜明けは近い

友よ、この闇の向こうには

友よ、輝くあしたがある


たしか主人公たちがこの詩を朗読しながら

銀杏並木を歩くシーンが最終回だった。

そんなシーンと今の心境がシンクロした。



「友よ、風に吹かれよう

その先にはそれぞれのゴールがある」


追伸:

今夜も夕食はシェア飯。

トマト、ナス、パプリカ、ズッキーニの

野菜炒め煮込み(気味)。

文字どおり“最後の晩餐”だった。

旅のチカラ、旅のカケラ

世界一周の旅、 それはもう遠い夏のようだ。 500日間世界を駆け巡り、 300を超える長距離バスに揺られた。 旅を終えて日常に復帰したが、 それでも時間を見つけては小さな旅を続けている。 旅のチカラに引き寄せられ、 旅のカケラを集めていく、 そんな毎日。

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