バイオハザード



GMT777便 

カンクン発、メキシコシティ行き

“7”が3つも揃って縁起が良さそうだが

重たい足取りで空港に向かった。



見えないウイルス、錯綜する情報、

豚インフルエンザが蔓延している渦中の場所へ…。

「ホントに行くんか?」

マギー司郎によく似た宿のオーナーが心配してくれた。

「はい。もうキャンセルできないんで…」

玄関まで見送ってもらい深く頭を下げた。



カンクンの空港へのバスは通常どおりに運行していた。

ここまで目立った混乱はないようだ。

空港に到着、航空会社のカウンターでチケットを受け取り

すぐにチェックインを済ませる。

職員たちは皆マスクをつけていたが

飛行機は予定通りに飛ぶという。まずはひと安心。



荷物検査の前に問診表への記入があり、

発熱や頭痛など、体調の異変について調べられたが

問題なくスルー。そして機内へと入った。



■カンクン→メキシコシティ

(所要時間:2時間/運賃:1220ペソ ※約1万円)



カンクン⇔メキシコシティに限ってかも知れないが

長距離バスよりも飛行機の方が安かった。

バスは約1万5000円でしかも24時間かかる。

飛行機ならたったの2時間、

1日に何便も運航しているし断然利用価値が高い。


そして問題のメキシコシティに着陸した。


検疫はなく、空港内は落ち着いていた。

ただ、圧倒的に人が少ない。閑散としている。

マスクをしっかりと装着し、

念のためトイレでうがいと手洗いをしておいた。



さて、すぐに大脱出を始めよう。

お金を気にしてる余裕はないので

メトロを利用すればたったの3ペソ(約25円)だが

人ごみを避けたかったし、

できるだけメキシコシティの滞在時間を短くしたかった。

タクシーはチケット制で、

目的の場所までは152ペソ(約1200円)だった。



北バスターミナル。

ここでタクシーを降り、一番早い便で約200km離れた

「ケレタロ」の街へ移動することにした。

ケレタロはまだ豚インフルエンザの感染者が出ていない。

日本への帰国便は5月12日、

いずれまたこの街に戻って来なければならないが

今は少しでも安全な街へ逃げて待機したい。

楽しみにしていたメキシコ観光が逃走劇になるとは…。



現在、豚インフルエンザはフェーズ4。

第一報からたったの3日間で事態は急速に悪化した。

もしこのままフェーズ5に上がったら国境が閉鎖されるという。

できれば帰国便を早めたかったが

キャンセル(日程変更)ができないと言われてしまった。

約7万5000円、格安航空券の悲しい現実…。

帰国まで約2週間、持ちこたえられるか?



国境閉鎖も心配だが、感染しないかももちろん心配だ。

長旅で体力は落ちているし、免疫力も少ないだろう。

もし感染したら、自分の健康よりも世論が怖い。

マスコミに騒ぎ立てられ、超一級の犯罪者扱いをされるはず。

怖い、怖い。


メキシコで癒されて、

この長旅にピリオドを打つはずだったのに

一番の危機を迎える羽目になるとは......。

リアル・バイオハザード、敵も未来も見えない。


■メキシコシティ→ケレタロ

(所要時間:約3時間/運賃:93ペソ ※800円)



ケレタロに到着した。

ここは水道橋が残る歴史風致地区。

1997年に世界遺産に登録されている街。


「あぁ、ここで少しは癒されたいな…」

マスク越しに呟いた。

旅のチカラ、旅のカケラ

世界一周の旅、 それはもう遠い夏のようだ。 500日間世界を駆け巡り、 300を超える長距離バスに揺られた。 旅を終えて日常に復帰したが、 それでも時間を見つけては小さな旅を続けている。 旅のチカラに引き寄せられ、 旅のカケラを集めていく、 そんな毎日。

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