嫌なリキシャ、粋なリキシャ(後編)


※前編のつづきです。

列車が大幅に遅れ、

ジャイプールに到着するとすでに22時を回っていた。

インドの夜は魔物が潜んでいる…

往々にして、トラブルに巻き込まれる時間帯だ。



目星をつけていたホテルに電話をしてみたところ、

無情にも「満室」だという。

さぁ、あてがなくなったぞ、どうしよう?


獲物に気がついたのか、たくさんの客引きが集まってきた。

俺のリキシャに乗れ、50ルピーだ、

ホテルなら俺の知り合いのところへ連れていってやる、

インドの夜は暗い。

そして真っ黒な顔をしたインド人は、ますます胡散臭く思えてくる。


「金がないんだ、歩いていくよ」

そう言ってその場を去ろうとしたが、

すぐに諦めないのがインド人。

日本人ならお金があるはずだ!

いくらなら出せる??


あぁ、しつこい!


3ルピー!!(約7円)

チャリンと小銭を鳴らせてみせた。


「OK」

客引きのひとりが名乗り出た。

「3ルピーで乗せていくよ」


いやいや、ありえないでしょ!?

絶対何かの罠だよ。

「今、3ルピーって言ったじゃないか、

俺はその金額で納得したんだ」(客引き)


面白い。お前のリキシャに委ねてみるよ。

何かあれば大声で助けを求めるか、

いざとなったら闘う覚悟はある。

(なんか、インドに来て人格変わってきたな…)


彼の名は「ラッキー」、恐らく適当にそう名乗っているのだろう。

リキシャに揺られること10分、

値段も内容もそれなりの1軒の安宿に着いた。

さて、支払いだ。

手のひらにコインを数枚乗せ、彼に差し出した。

すると、その中から3枚、

きちんと3ルピーだけを手にとった。


「約束だろ?」

得意そうな顔で、そうつぶやく彼。

粋なインド人がいるものだ。


疑って悪かったよ、ごめんな。

頭を下げ、握手を求めた。

「お前は少しクレイジーだな、でも面白いよ」

と、運転手はつぶやきながら笑顔で握手を交わした。


なんでもアリ、それがインド。

すべてを信用すれば、必ず痛い目を見るし、

すべてを疑えば、必ず苦い思いをする。

何を選ぶかはAs you like。

お気に召すまま、ってわけだ。

旅のチカラ、旅のカケラ

世界一周の旅、 それはもう遠い夏のようだ。 500日間世界を駆け巡り、 300を超える長距離バスに揺られた。 旅を終えて日常に復帰したが、 それでも時間を見つけては小さな旅を続けている。 旅のチカラに引き寄せられ、 旅のカケラを集めていく、 そんな毎日。

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